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暴行事件で被害届を出されたときの取り下げの方法と示談交渉

  • 文責:所長 弁護士 岡田大
  • 最終更新日:2025年6月4日

暴行事件で被害届を出された場合、被疑者の方は「被害届を取り下げてほしい!」と思うことでしょう。

しかし、実は「被害届を取り下げる」だけでは、刑事事件は終了しません。

今回は、一般に言われる「被害届を取り下げる」ことの意味と、暴行事件で被害届を出されたらどうすればよいのかについて解説します。

1 暴行事件の刑罰と刑事手続の流れ

⑴ 暴行事件の刑罰

他人に対して暴行を行った場合、被害者がケガをしていなければ暴行罪、ケガをすれば傷害罪となります。

【暴行罪(刑法208条)】

“暴行を加えた者が人を傷害するに至らなかったときは、2年以下の拘禁刑若しくは30万円以下の罰金に処する”

【傷害罪(刑法204条)】

“人の身体を傷害した者は、15年以下の拘禁刑又は50万円以下の罰金に処する”

⑵ 刑事手続の流れ

身柄拘束された場合でも、されなかった場合でも、警察の捜査→検察の捜査→検察官の処分という流れは変わりません。

身柄拘束された場合には、最大23日で起訴(略式起訴)か不起訴かという決定が出てしまうという点が、大きな違いとなります。

2 被害届について

⑴ 被害届とは?

被害届とは、犯罪によって被害を受けたことを捜査機関に知らせるための書類です。

被害届は「捜査の端緒」、つまり警察が、犯罪が発生したことを知り、捜査を始めるきっかけにすぎません。

犯罪捜査規範第61条には、「警察官は、犯罪による被害の届出をする者があったときは、その届出に係る事件が管轄区域の事件であるかどうかを問わず、これを受理しなければならない」と定められています。

そこで、暴行の被害者が被害届を出したら、警察官はこれを受理しなければならないのです。

もっとも、現実問題として、警察の人員も限られていることから、どのような事件でも捜査するというのは難しいからなのか、警察官が被害届を「受理しない」という対応をすることはよく見受けられます。

⑵ 告訴との違いは?

告訴とは、捜査機関に対して、犯罪を申告して処罰を求める意思表示のことです。

被害届と違う点は、「処罰を求める」点です。

また、起こった犯罪が親告罪である場合には、告訴が訴訟条件(起訴をするための条件)になります。

そのため、親告罪で告訴を取り消した場合には、刑事事件は終了となります。

なお、暴行罪も傷害罪も親告罪ではありません。

よって、暴行事件の被疑者として重要なのは必ずしも「被害届を取り下げさせる」ことではなく「不起訴処分を得る」ことになるでしょう。

⑶ 「被害届を取り下げる」の意味は?

被害届の提出は捜査の端緒にすぎないので、法的には被害届を取り下げても捜査に影響を与えることはありません。

被害届の取り下げで刑事手続が終わるということではないのです。

しかし、被害者が、「被害届を取り下げた」ということは、「加害者を許してもいい」といいう気持ちの表れですので、情状がよくなるということであり、事実上は、処分を軽くする効果があります。

つまり、捜査中であれば、被害届の取り下げにより検察官が不起訴処分にする可能性が非常に高くなります。

また、裁判中であれば、執行猶予がついたり、(前科などの関係から)実刑を免れない場合でも、刑期が短くなったりする効果があります。

なお、被害者が被害届を取り下げて、「不起訴」となった場合でも、暴行事件がなかったことになるわけではなく、捜査の対象になったことがあるという「前歴」が残ります。

それでも、「前科」が残るよりはよほどマシであると言えるでしょう。

3 暴行事件で被害届を出された時の対処法(示談)

暴行事件で被害届が出されて捜査が始まったら、情状を良くして不起訴処分を目指すことが大切になります。

そして、情状を良くするために最も重要なものは、被害者との「示談」です。

示談を成立させるために、被害者にある程度の金額の示談金を示して交渉をすることになります。

⑴ 示談交渉の初め方

交渉をするには、被害者の住所や連絡先を知る必要があります。

しかし、警察官も検察官も、被害者の保護という観点から弁護士でなければ被害者の住所や連絡先を教えません。

加害者本人またはその家族からの連絡を快く思う被害者もいないでしょう。

また、被害者の住所や連絡先を既に知っている場合であっても、弁護士を通じずに連絡を取ろうとしてはいけません。

恐怖心を抱いている被害者にしつこく連絡を取ろうとすると、「脅迫を受けた」「被害届の取り下げを強要された」などと言われ、ますます情状が悪くなる可能性もあります。

被疑者が焦って被害者の気持ちを考えずに被害者と接触しようとすることは逆効果です。

そこで、早急に弁護士に依頼することが必要です。

⑵ 示談金額の相場

示談金額には決まりはありません。

暴行に至るまでの経緯、暴行事件時の状況、けがの程度(治療費・治療にかかる期間)、被害者の被害感情の大きさ、加害者の経済力などによって変わります。

いくらで示談しなければいけないという決まりはないので、多額の示談金を提示しても被害者が拒めば示談することはできないのです。

実際、暴行罪・傷害罪の示談金は、10万円程度から200万円程度まで事案によって様々です。

個々の暴行事件で、どのくらいの示談金を提示すればよいのかについては、過去の事例についても精通している弁護士とよく相談しましょう。

⑶ 示談書に盛り込む内容

示談が成立したら、示談書を交わして示談金を支払います。

そして多くの場合、示談書には、「被害者が加害者を宥恕する」つまり、加害者を許すという言葉が入ります。

もっとも、被害者の被害感情が強く、「宥恕」という言葉に拒否反応を示す場合には、そのような文言を入れない示談書を作成して示談金を払うこともあります。

文言が入っていなくても、示談金を受け取ってもらう、つまり「被害者に慰謝の措置が講じられている」ということが、情状においてもっとも重要だからです。

そして弁護士は、検察官に示談書を提出して、不起訴処分にするように働きかけます。

示談書を受け取った検察官は、被害者に「示談の内容に間違いないか」を確認し、それが処分に反映されます。

なお、通常は、示談金と引き換えに、示談書とは別に被害者の署名押印のある「被害届取下書」を交付してもらい、これを警察署に提出して取り下げます。

4 暴行事件の被疑者となったら早急に弁護士へ相談

暴行事件で被害届を出されたら、刑事事件の被疑者となったということです。

このことを軽く考えずに、専門家である弁護士に早急に相談しましょう。

前科を避け、不利益を少しでも小さくするために必要なのは、必ずしも「被害届を取り下げさせる」ことではなく「不起訴処分を得る」ことです。

被害者との示談には弁護士の力が不可欠です。

暴行事件の被疑者となってしまったという方は、お早めに弁護士にご相談ください。

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